あなた

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きさらぎ駅

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終電に揺られるのは、嫌いじゃなかった。
一日の終わりを運んでくれる、静かな箱みたいで。
車内にはまばらに人がいるだけで、誰も口を開かない。
蛍光灯の白い光が、眠りかけた顔を均一に照らしている。
窓の外は、ずっと暗いままだった。
街灯も、コンビニの明かりも、なにも通り過ぎない。
——あれ?
気づいたのは、ほんの些細な違和感だった。
いつもなら、もういくつか駅を過ぎているはずなのに。
電車は、まだ一度も止まっていない。
時計を見る。
思っていたより、ずっと時間が経っていた。
「……おかしいな」
小さく呟いてみても、誰も反応しない。
周りの乗客は、まるで最初からそこにいなかったみたいに静かだった。
不安が、胸の奥でゆっくり形を持ち始める。
ポケットからスマートフォンを取り出し、画面を開く。
指先が、少しだけ冷たかった。
——電車が、止まらないんですけど。
書き込んだその一文が、
この奇妙な夜のはじまりになるなんて、
そのときはまだ思っていなかった。